清らかな場所
そこに立つと、いつも「静かだ」と思う。
光と静寂に包まれた場所。
今日も生い茂った木々を眺めながら、ゆっくり車を走らせ、その場に向かった。
途中の気温表示板が31℃になっていた。

いつものように、そこは光輝いていた。
ここに佇む草木や花たちは、この瞬間の命を自らの色で美しく放ち、あたたかな光がさらにそのものたちを一層輝かせている。
周りの静けさも、さらに光を際立たせている。
汚れのない姿が私の心をとらえ、ずっと眺めていたい。
そんな気持ちにさせてくれて、私を清らかにしてくれる。

しばらく光の中に身を置いたあと、馬房の馬に近づいた。馬は顔を寄せて私の匂いを嗅いだ。私がそっと鼻の上に触れると、頭を下げ、撫でられたままでいた。
馬の透き通った目を見ながら撫でるとき、他では感じることができない、穏やかな気持ちになり、優しい空間に包まれる。


光と共に馬とたわむれたあと、静けさを保ったままカールちゃんと屋内場に入った。
私は馬に乗る時、はじめに深呼吸をする。馬にまたがり、再度呼吸を整え、足で合図を送る。馬はこちらの合図を感じ取り、ゆっくり動きだす。馬の足音だけが響き渡るなか、馬のリズムに体を合わせながら、ハミと手綱のほどよい感覚、馬の状態、自分の姿勢や足の置き方、手の位置、力が入りすぎていないかなど全神経を自分と馬に合わせる。
徐々に歩様を変えていくが、九の字、八の字、方向転換など、馬が飽きないようにすることも必要になってくる。できたときは、ほめてあげることもとても大事な事だ。
スタッフの方に教わったことを思い出しながら、カールに乗らせてもらい、練習を始めた。
私は、速歩(はやあし)から駈歩(かけあし)に移行するときなど、馬のスピードが速くなるにつれ、つい手に力が入ってしまい、手綱を強く握ってしまう。今日は、カールの口に負担がかからないように、手綱の感覚に特に注意をはらい、カールの意識が私に向いてくれるような加減を保ちながら練習をした。
なんとなく、私の手とカールの口が、手綱とハミを通して一体となり、カールはふんわり走ってくれたように感じた。
カールは時折、耳を後ろに向けながら、私が指示した足の合図を感じ取っていた。
常歩、速歩、駈歩、そして、途中で九の字や八の字を繰り返しながら、カールも私も集中力がとぎれることなく、練習することができた。

カールの背中から降り、鼻の上をなでると、カールもいきよいよく鼻で返してくれた。
汗をたくさんかいていたので、シャンプーをした。
産まれたてのような真っ白な毛と、黄金色のたてがみが、輝きを増していた。

カールにまたね、と言葉をかけ、すがすがしい気持ちになって、その場をあとにした。
